第十八話

「でも気持ちを強要しようとは思っていません」
「……」
「勝手かもしれませんが、俺の気持ちを知っておいて欲しかったんです」
「…なおえ…」

可哀想なくらい緊張している彼には悪いが、俺はもう完全に開き直っている。大の大人が、なにを子供に本気になってるんだと言われようが構わない。

長い沈黙の後、高耶さんが神妙な面持ちで口を開いた。

「………おれ、好きとかよく分かんねえ…“俺も”って言ったら、どうなるってんだよ」

変わるのが怖いのは解る。
二人とも何より大事なのはこの家で一緒に過ごす時間なんだ。だからこそ俺も告げずにいた。でももうこの気持ちを、誤魔化せないとこまで来ている。

「俺の好きと直江の…それは、多分違う…し」

段々と俯かれるのに焦る。彼を悲しませたい訳じゃないんだ。

「…ええ分かっているつもりです。いきなり同じだけ返してほしいとは言いません。ただ…」
「……」

彼の目をまっすぐ見つめる。

「学校でのこと、なかった事にするつもりはありませんから」

好きになってもらえる努力をしよう。
もう大人の本気も余裕も無しだ。



とりあえず桃だとうい風に、高耶さんはフォークを突き立てた。よく分からない事は考えない、というのは持ち前の前向きさから来ているんだろう。
二人でもくもくと甘い果実を口に運ぶ。

「あなたは甘いものがよく似合いますね」
「いや意味分かんねえし」

桃の露で濡れた唇に目が吸い寄せられる。ひどく扇情的なその様に、思わずちゅっと唇を吸った。

「な…な、何すんだこのスケベ!」
「スケベ…!?」

高耶さんは真っ赤になると両腕で胸を押し返し、乱暴に袖で口を拭いた。…そこまで嫌がらなくても。

「…すみません、美味しそうでつい」
「お…!なななに言ってんだ!もう俺に触んな、寄んな!」

そう言ってキッと目を吊り上げると、一人分の間隔を空けて座ってしまう。

「まあまあ。あ、もっと桃持ってきますね」
「桃で誤魔化されるか!」

憤慨する彼の声を背に聞きながら、俺はキッチンへと足を進めた。
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