「でも気持ちを強要しようとは思っていません」 「……」 「勝手かもしれませんが、俺の気持ちを知っておいて欲しかったんです」 「…なおえ…」 可哀想なくらい緊張している彼には悪いが、俺はもう完全に開き直っている。大の大人が、なにを子供に本気になってるんだと言われようが構わない。 長い沈黙の後、高耶さんが神妙な面持ちで口を開いた。 「………おれ、好きとかよく分かんねえ…“俺も”って言ったら、どうなるってんだよ」 変わるのが怖いのは解る。 二人とも何より大事なのはこの家で一緒に過ごす時間なんだ。だからこそ俺も告げずにいた。でももうこの気持ちを、誤魔化せないとこまで来ている。 「俺の好きと直江の…それは、多分違う…し」 段々と俯かれるのに焦る。彼を悲しませたい訳じゃないんだ。 「…ええ分かっているつもりです。いきなり同じだけ返してほしいとは言いません。ただ…」 「……」 彼の目をまっすぐ見つめる。 「学校でのこと、なかった事にするつもりはありませんから」 好きになってもらえる努力をしよう。 もう大人の本気も余裕も無しだ。 とりあえず桃だとうい風に、高耶さんはフォークを突き立てた。よく分からない事は考えない、というのは持ち前の前向きさから来ているんだろう。 二人でもくもくと甘い果実を口に運ぶ。 「あなたは甘いものがよく似合いますね」 「いや意味分かんねえし」 桃の露で濡れた唇に目が吸い寄せられる。ひどく扇情的なその様に、思わずちゅっと唇を吸った。 「な…な、何すんだこのスケベ!」 「スケベ…!?」 高耶さんは真っ赤になると両腕で胸を押し返し、乱暴に袖で口を拭いた。…そこまで嫌がらなくても。 「…すみません、美味しそうでつい」 「お…!なななに言ってんだ!もう俺に触んな、寄んな!」 そう言ってキッと目を吊り上げると、一人分の間隔を空けて座ってしまう。 「まあまあ。あ、もっと桃持ってきますね」 「桃で誤魔化されるか!」 憤慨する彼の声を背に聞きながら、俺はキッチンへと足を進めた。 next |